Things to Come:ロムニーの医療保険改革案
8月24日にロムニーが医療保険改革案を発表した。共和党の有力候補者ではジュリアーニに続く本格的な改革案の発表である。医療保険という本来は民主党のテーマである問題について共和党の候補者が相次いで改革案を打ち出しているという現実には、この問題への有権者の関心の高さが反映されている。同時にロムニーの改革案には、今後共和党がどのように民主党案を攻撃していくかという方向性が示唆されている。
ロムニーの改革案には大きな驚きはない。ジュリアーニと同様に、概ね共和党のラインに沿った内容だからである。ロムニーはマサチューセッツ州知事時代に、民主党の州議会と協力して、州民皆保険を目指した改革を実現している。しかし、共和党の予備選を争うロムニーが、マサチューセッツの改革に含まれたような、保守層が嫌うような提案を行なうことはなかった。
ロムニーの改革案の特徴を上げるとすれば、「含まれなかったもの」を指摘せざるを得ない。「義務付け」である。このページでも何度か触れているように、共和党も民主党もハイブリッド型の医療保険制度を基本とする中で、義務付けは「逆選択」に絡んだ大きな論点であり、保守層にすれば医療の社会化につながる受け入れ難い提案である。マサチューセッツの改革には、企業(提供)・個人(加入)の双方に義務付けが行われていたが、今回のロムニーの改革案には、ジュリアーニの提案と同様に、一切の義務付けは含まれなかった。
ロムニーは大きく分けて6つの提案を行なっている。
1.連邦政府補助金による州の医療保険規制緩和の促進
2.連邦政府が州政府に支給している無保険者用医療費の低所得者向け医療保険購入支援への転用
3.HSAの利用基準緩和と個人保険に関わる費用の完全所得控除化
4.ブロック・グラント化による各州のメディケイド改革促進
5.医療訴訟改革
6.情報化、コスト・クオリティ情報の公開等による市場力学の強化
このうち、連邦政府が行なう無保険者対策に分類できるのは、3の税制改革くらいだろう。企業提供医療保険と個人保険の税制上の扱いを共通化していくという方向性は、ジュリアーニやブッシュ政権と同じである。この辺りには、ロムニーのアドバイザーであるグレン・ハバードの存在が感じられる。ハバードはロムニーがマサチューセッツと違うスタンスを採ったのは、「大統領は連邦税制を変更できるという点で州知事よりも大きな権限を持っているからだ」と指摘している(Jacoby, Mary and Sarah Lueck, "Romney's Federal Prescription", Wall Street Journal, August 24, 2007)。
ロムニーの改革案で興味深いのは、共和党陣営が民主党の改革案を批判していくであろう2つの方向性が浮かび上がっている点である。
第一に、ロムニーの改革案の大原則は、医療保険改革は州政府が先導すべきだというものである(Luo, Michael, "Romney to Pitch a State-by-State Health Insurance Plan", New York Times, August 24, 2007)。これは、民主党が考えるような連邦政府主導の改革では、地域のニーズを汲み取れないという議論につながる。民主党案を大掛かりでグロテスクに形容するのは、ヒラリー・ケア以来の共和党の得意技である。
第二に、ロムニーは大規模な改革を提案しない理由として、上手く機能しているシステムに対しては「悪いことをしないのが肝心」だと主張している。米国の医療制度には良いところが沢山あり、不用意な改革によってこれを損ねるべきではないというわけである。無保険者問題といっても、その数は保険加入者には遠く及ばない。そして有保険者は、改革によって自らの待遇が悪化するのを恐れている。こうした恐怖感こそが、90年代前半にクリントン政権が医療保険制度改革に失敗する素地になった。そのことは共和党も忘れてはいない。民主党にとっては、このアキレス腱をどうカバーするかが、改革実現に向けての大きなハードルになるのである。
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