大統領選挙人とLaboratory of Democracyの暴走
米国は連邦制の国。大統領選挙のような国の根幹を決める制度にまで、各州の裁量が働く。予備選の前倒しもさることながら、今度は本選挙における大統領選挙人の決め方を変えようという動きまで浮上してきた。いつまでも定まらない選挙の構図には、各候補者も頭を悩ませそうだ。
米国の大統領選挙は各州に人口に応じて配分された大統領選挙人の獲得数を競う選挙である。現時点では、メインとネブラスカ以外では、それぞれの州で最も多い得票者がその州に割り当てられた選挙人をすべて独占する方式(勝者総取り方式)が採用されている。州全体では勝負の行方が見えている州では候補者が選挙運動を行わなかったり、全国での得票総数の少ない候補者が当選したりするのは、こうした制度に一因がある。2004年の大統領選挙では、どちらに転ぶか分からなかった州は13州(選挙人にして159人)に過ぎなかったという。言ってみれば、これ以外の州では実質的には選挙が行われなかったも同然なのである(Steihauer, Jennifer, "States Try to Alter How Presidents Are Elected", New York Times, August 11, 2007)。
こうした中で話題になっているのが、カリフォルニア州の共和党関係者が住民投票への提案を検討している、大統領選挙人を州内の議会選挙区毎に分配する方式に変更しようという改革である。メインとネブラスカが採用しているこの方式では、まず下院の各選挙区に一人ずつの選挙人が割り当てられ、これらはそれぞれの選挙区での最多得票者に与えられる。上院の二人分は、現在と同様に州全体での最多得票者のものになる。
「議席配分方式」の各州にとってのメリットは、候補者による選挙運動の対象になる可能性が高まる点にある。しかし、選挙人の配分方法の変更は、選挙結果にも多大な影響を与える可能性がある。例えば、全米規模で「議席配分方式」が採用された場合には、共和党に有利になるといわれている。民主党の支持者が都市部などに固まっているのに対して、共和党の支持者はもっと広範に広がっているからである。2000年の大統領選挙では、ブッシュは47.87%の得票率で選挙人の50.37%を獲得しているが、これが「議席配分方式」だったら、選挙人の獲得率は53.53%になっていた(Talukdar, Monideepa, Robert Richie and Ryan O'Donnell, "Wrong-Way Reforms for Allocating Electoral College Votes", FairVote, August 8, 2007)。
もっと厄介なのは、個別の州が独自に改革に踏切った場合である。カリフォルニアの場合には、勝者総取りならば民主党が圧倒的に有利だが、議席配分方式であれば共和党にも望みがある。2004年の大統領選挙ではブッシュが22の選挙区で勝っているし、2006年の議会選挙でも19議席は共和党である。仮にカリフォルニアだけがこうした変更を行えば、民主党が大統領選挙に勝つのは難しくなるほどのインパクトがある。カリフォルニアの民主党陣営は反対運動を準備しており、ノースカロライナのように民主党に有利になりそうな州での改革を進めようとする動きもある(Marois, Michael B., "California Democrats Gird for Fight Over Electoral Vote Measure", Bloomberg, August 16, 2007)。
選挙人の配分に関しては、各州での得票率に比例した配分に変えるという考え方もある。この方式だと、2000年の大統領選挙はブッシュとゴアの同数になっていた。さらに、全国での最多得票者に、州の選挙人を全て与えるという提案もある。メリーランドは、大統領選挙人の過半数にあたる州が同調するのを条件に、こうした改革を立法化している。
選挙人の配分に関する騒動は、各州がより良い制度を模索しているといえば聞こえは良いが、実際にはかなり生臭い政治的な計算の産物である。いずれにしても、候補者にとっては、標的の定まらない難しい選挙になりそうだ。
:::another public announcement:::
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