Sub-Prime Bluesと民主党の落とし穴
サブプライム発の市場の動揺が続いている。大統領選挙の観点では、この問題は民主党候補者がブッシュ政権の経済政策を批判する格好の題材となっていると同時に、その行き過ぎの危険を感じさせる典型的な案件である。
市場の関心はクレジットの縮小にあるが、民主党候補者の関心はローンの焦げ付きによる立ち退きを迫られている借り手の保護だ。その文脈は、大衆の側に立つという民主党のポピュリスト的な経済政策にピッタリである。実際にヒラリーなどは、現在の借り手の窮状を、個人にリスクを押し付けるブッシュ政権のYOYO経済政策の犠牲者だと形容している(Bombardieri, Marcella, "Democrats offer fixes to foreclosure crisis", Boston Globe, August 8, 2007)。借り手救済と地方政府による貸家等の住宅政策にそれぞれ10億ドルを用意すると同時に、繰り上げ返済へのペナルティー禁止といった業界規制・借りて保護策の強化を実施すべきだというのがヒラリーの主張である。この政策が発表されたイベントでヒラリーを紹介した人物は、コンピュータ・セキュリティ・コンサルタントの仕事をアウトソーシングで失い、子どもの習い事を止めさせ、退職金を取り崩しまでしながら、住宅ローンの金利上昇に耐えられなかったという。これから金利変更時期を迎えるサブプライムローンはまだまだ多い。市場の不透明感が続けば、有権者の不安も強まり、これに呼応するように、民主党候補者のトーンも高まるだろう。
共和党系の識者は、ヒラリー達の提案が必ずしも適切な対応であるとは限らないと指摘する。例えば、かつて下院院内総務を務めたディック・アーミーは、今回の問題は市場の自然な調整過程に過ぎず、政府による対応は副作用が大きいと指摘する(Armey, Dick, "Let Market, Not Government, Deal With Subprime Mortgage Problem", Investor's Business Daily, August 15, 2007)。二つの要素がある。第一にモラル・ハザードの問題である。サブプライムには貸し手・借り手の双方に問題がある。安易な救済は、モラル・ハザードの発生を招き、同じ様な問題の再発を招きかねない。同じく保守派の論客であるジョージ・ウィルは、「借り手への思いやり」を掲げる民主党候補者は、できるならば金利の引き下げにまで進みかねない勢いだとしながら、金融政策が政治から分離されているのは幸運だと指摘している(Will, George, "Folly and the Fed", Washington Post, August 16, 2007)。第二の問題は、住宅市場の調整が終わった後も、規制強化などの対策は残ってしまう点だ。SOX法の見直し論を引くまでもなく、危機への対応は時に行き過ぎた規制につながる。市場の効率性が損なわれれば、かえって庶民の住宅購入が難しくなる可能性も否定できない。
英エコノミスト誌は、ブッシュ政権が保守の政策を真正面から追求しながら満足の行く結果を残せなかったたことを理由に、2008年の大統領選挙を契機に米国の政策は左旋回するだろうと予測する("Is America Turning Left?", The Ecoomist, August 11, 2007)。その上で、こうした変化が諸外国にとって好ましいとは限らないとも警告する。「分配」や「保障」への重点の移動は、時代の要請である。しかし、民主党が市場の力を損ねないための知恵を出せるかどうかは、今後の世界経済の行方にも、少なからぬ影響を与えそうだ。
:::Public Announcement:::
ブルースといえば...(それでこんなタイトルになったというわけじゃ...)。
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