2007/08/30

Does Sun Also Rise ?:忠臣の退場とブッシュ政権

8月27日に発表されたゴンザレス司法長官の辞任は、ブッシュ政権にとって一つの大きな区切りとなった。就任以来重用してきた忠臣軍団は去った。ブッシュ政権にとっては、民主党議会との協力関係を築く最後のチャンスだが、大統領がそのように動くとは限らない。

ゴンザレス長官の辞任は、カール・ローブ次席補佐官の辞任とセットで考える必要がある。これによって、2001年の政権発足以来大統領を支えてきた忠臣たちが、ほとんどいなくなってしまったからである。これだけ個人的な友人や長年の部下を大量に政権に登用したのは、カーター政権以来だといわれる。政権発足時の採用面接では、「単にホワイトハウスで働きたいのか、それともブッシュのホワイトハウスで働きたいのか」と聞かれたというから、ブッシュ大統領の忠誠心へのこだわりは筋金入りである。しかし、政権末期が近くに連れて、テキサス人脈は次々と政権を去っていった。今でも残るのは、スペリング教育長官、ジョンソンHUD長官、そしてOMBのジョンソン副長官ぐらいである(Romano, Lois, "Lonely at The Top", Washington Post, August 28, 2007)。

一枚岩の政権はメッセージのコントロールに強く、予想外の内乱にも足を掬われ難い。その意味で選挙に臨むには適している。しかし、行政運営という観点ではマイナスの要素もある。第一に、ともすれば「悪い情報」が上に上がりにくくなり、グループ思考の罠に陥りやすい。第二に、能力よりも忠誠が重視されると、適材適所の人材配置が難しくなる。第三に、特にブッシュ政権では、忠誠心が共和党の政治的な勝利を目指す方向に向いており、これが党派対立を激化させる要因になった。

「忠臣軍団」の退任から浮かび上がるのは、レイム・ダック化の現実にようやく対応しようとする、ブッシュ政権の姿である。ブッシュ政権が残りの任期で体制を立て直し、少しでも自らの政策を実現していくには、民主党主導の議会と渡り合っていかなければならない。その意味で「忠臣軍団」の退場には2つの意味合いがある。第一に、民主党議会による攻撃対象を減らすことである。ローブ次席補佐官やゴンザレス司法長官は、民主党による執拗な調査活動の標的になってきた。両者の退陣によって民主党は、絶好の「パンチング・バック」を失った。ブッシュ政権にすれば、自らの弱みを切り離すことで、民主党議会に対するポジションを少しでも改善できるという思いがあるだろう。一連の辞任はブッシュ政権にとって大きな打撃になるという報道は少なくないが、2人は既に政権の大きなお荷物だったわけであり、そうした見方は当たらない。第二に、議会との関係改善である。前述のように、政治的な目的を共有する「忠臣軍団」は、党派対立を激化させる役回りにあった。ボルテン主席補佐官を中心とする実務家集団には、ブッシュ政権を中道寄りにシフトさせ、民主党との協力を進めやすくする要素がある(Stolberg, Sheryl Gay, "Departures Offer Chance for a Fresh Start as Term Ebbs", New York Times, August 28, 2007)。また、ローブやゴンザレスには、民主党のみならず議会共和党からも不満があった。ローブには議会共和党を軽視するような振る舞いが目立ったし(Green, Joshua, "The Rove Presidency", The Atlantic, September 2007)、ゴンザレスは政権を守ろうとする余り議会共和党の信頼までも失っていた。それでなくても改選を控える議会共和党には、不人気な政権から距離を置こうという力学が働く。議会共和党との関係改善は、政権が民主党の攻勢を食い止めるためには、最低限の必要事項である。

もっとも、ブッシュ大統領が今さら民主党との協調路線に転ずるというのは、なかなか考え難い展開である。何よりも、大統領の意図が問題である。ゴンザレス辞任の会見を見ても、これを新たな転機にするというよりは、忠臣が辞任に追い込まれたことへの怒りが勝っているように見える。せっかく無党派層を取り返すチャンスになるSCHIPでも、ブッシュ政権は敢えて民主党を正面から批判する立場をとっている。これには民主党のエマニュエル下院議員も、「何が大統領をそうさせているのか理解できない」と困惑気味だ( Toner, Robin, "A Polarizing Bush Despite a New Cast", New York Times, August 30, 2007)。国内政治という観点では、イラク戦争や来年度予算で民主党の主張を食い止め、規制行政を通じて少しでも自らの政策実現に近付けるというのが、政策に残された唯一の選択肢なのかもしれない。そもそも税制改革や年金改革といった大きなテーマは、さっぱり議論の俎上に上らなくなっている。両者が協調するといっても、農業法やサブプライム関連などの比較的小粒な案件に止まりそうだ(Seib, Gerald F., and John D. McKinnon, "Lame-Duck President Has Fewer Tools to Advance His Shrinking Agenda", Wall Street Journal, August 28, 2007)。

思えば、ブッシュ政策にレイム・ダックという形容詞が使われるようになってから随分たつ。かくいう自分も、昨年3月の時点で、「黄昏を迎えるブッシュ政権」なんていう言い回しを使ってしまっている。「それから一晩を過ごして、そしてまた朝がやって来る」などというのは、比喩の世界はともかくとして、現実にはそうそうあり得る展開ではなさそうである。

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