波紋を呼ぶオバマの年金改革案
第二期ブッシュ政権が大きな挫折を経験した公的年金改革だが、ここに来て民主党の各候補者の提案が明らかになってきた。日本ほどではないが、米国も高齢化が進もうとしている。最大の課題は医療保険だが、将来的には公的年金も財政バランスが崩れてくる。年金財政の健全性をいかに確保するかが問われているわけである。
焦点は財源としての社会保障税の扱い。なかでも注目を集めているのは、オバマの提案である。オバマは9月21日のQuad-City Timesへの投稿で、年金所得の課税上限を見直すべきだと主張した(Obama, Barack, "Fixed-income seniors can expect a tax cut", Quad-City Times, September 21, 2007)。同26日にニューハンプシャーで行われた民主党の討論会でも、オバマはこの提案を強調している。課税上限の見直しは、ブッシュ政権も検討したことがあるが、オバマは現在年間9万7500ドルに設定されている上限の廃止を例示しており、そうなれば実に10年間で1兆ドルの増税となる大掛かりな改革になる(Davis, Teddy, "Obama Floats Social Security Tax Hike", ABC News, Septmber 22, 2007)。エドワーズも課税上限の見直しを提案しているが、現在の上限から20万ドルまでは除外されるので、オバマ案よりは増税規模は小さい。
当然のように、オバマの提案には共和党陣営から「大増税」との批判が集まっている。医療保険改革と並んで、共和党にとって税制の問題は、「政府のあり方」を軸に民主党との違いを強調しやすいテーマである。それでなくても、年金改革は米国政治の「第三のレール」といわれ、下手に手を出すと致命的な打撃を受けるといわれる。中には、民主党が社会保障税増税を持ち出したことで、税の分野で共和党が盛り返す芽が出て来たという意見もあるほどだ(Pethokoukis, James, "Forget Clintonomics--This Is Mondalenomics", U.S. News & World Report, September 27, 2007)。
もっとも見逃せないのは、課税上限の見直しには、年金制度を擁護するリベラルな勢力からも慎重な意見が聞かれることである。公的年金が政治的に高い支持を得られているのは、誰もが負担に応じた恩恵を受けているというイメージがあるからだ。しかし、高所得層から低所得層への所得移転の性格が強くなりすぎれば、こうした幅広い支持は得られなくなりかねない。むしろ、かつての福祉制度のように、制度の縮小を求める気運が高まりかねないというわけである。オバマは税制改革案のなかで、低所得層の所得税をゼロにするとしているから、高齢者の間では二重の意味で所得移転の度合いが強くなる。
オバマの提案は、ヒラリーからの批判に応えたものだという見方がある。以前オバマは、年金改革について、「あらゆる選択肢を排除すべきではない」と発言したことがある。これに対してヒラリーは、給付削減や支給開始年齢の引き上げは解決策にはならないとして、何でも検討すべきだというオバマの立場を批判した(Calmes, Jackie, "Clinton Rules out Cuts in Social Securiy Benefit", Wall Street Journal, September 8, 2007)。何やら、独裁者と会談すべきか否かという両者の議論を彷彿とさせる。
それでは、そのヒラリーは年金改革をどう考えているのか。かつては社会保障税の累進化に与するような発言をしていたヒラリーだが、26日の討論会での発言は、「どのような選択肢も検討しない」というものだった。年金改革の具体案をどうこうする前に、一般財政の健全化を進めるのが先決だというのが、ヒラリーの立場なのである。実は米国の公的年金は現時点では黒字を計上している。その黒字を一般財政の赤字が食いつぶしているのが現状である。この一般財政による流用を止めれば、公的年金の財政事情は改善するというわけだ(Calmes, ibid)。
実はオバマも、前述の提案では一般財政の立て直しが先決だと主張している。それでも駄目な場合には、「全ての提案を議論」するべきであり、そのなかでも課税上限の見直しが有望だという論理展開である。そこまで言ってしまって、批判される危険性を犯すのか(意図しているかどうかも問題だが)、それとも、堅実な言い回しを使うのか。両候補の特色が良く現れている。
可哀相なのはリチャードソンだ。26日の討論会でリチャードソンは、本質的にはヒラリーとほぼ同じ議論を展開しているにもかかわらず、司会役に「そんな計算は成立たない」と突っ込まれまくっていた。なぜヒラリーはそのような目に会わなかったのか(少なくとも会っていないように見えるのか)。厳しいようだが、これがトップランナーと第二グループの違いなのかもしれない。
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