ヒラリーの中間層対策:Yesterday’s News was Pretty Good
今週ヒラリーは、アイオワとニューハンプシャーを舞台にしたバス・ツアーを敢行し、「中間層の再興」をテーマに、一連の経済政策を「21世紀の経済への青写真」として発表した。パッケージの中身は既に発表されていたものが多く、新しいのは学費支援、サブプライム関連の追加策、そして昨日取り上げた貯蓄増進策程度だが、取り敢えずそのラインナップを紹介しておこう。
1.イノベーションの力で高賃金雇用を生み出す
研究のために500億ドル規模のStrategic Energy Fundを新設。石油業界は自前で代替エネルギーの開発を進めるか、同ファンドに資金援助を行なうかを選択する。ファンドは研究支援だけでなく、オフィス・住居の省エネ化や、ガソリン・スタンドのE85対応工事に対する優遇税制や、バイオ燃料の商用化に関する債務保証などを行なう。
2.労働者の力を強化して、全ての米国人が公平な貢献を行うようにする
労組結成手続きを簡素化する。
通商協定の着実な実施を確保するために、USTRに通商執行官を設け、関連スタッフを倍増させる。
通商による失業者の救済策であるTAAを改革する。具体的には、サービス業や移転先との自由貿易協定などの有無にかかわらず海外移転した企業の労働者を対象に加え、職業訓練用の予算を4.4億ドルに倍増。失業期間中の医療保険費用を補助するHCTCについても、税額控除の水準を保険料の65%から90%に引き上げるなどの改革を行なう。
税制に公正さを取り戻す。高所得層の所得税率を90年代の水準に戻す。ファンド・マネージャーに対する不当な優遇措置を廃止する。中間層向けの減税は延長し、AMTを改革する。
3.一生懸命働いて責任を果たした国民には、先に進むためのツールを国が提供するという、基本的な契約を再建する
奨学金や優遇税制の改革によって、資金面で大学に通い易くする。
全ての国民に安価で質の高い医療保険を保証する(詳細は別に譲る)。
住宅問題に正面から取り組む。まず、立ち退き対策として、GSEなどを使った"Save Our Homes"プログラムを2年間の期限付きで実施する。具体的にはGSEのポートフォリオ上の規制を緩和し、700億ドル規模のモーゲージ購入能力を生み出す。また、州によるモーゲージ歳入債の起債基準を緩和し、リファイナンス用モーゲージの財源として利用できるようにすると同時に、起債上限を約25%(25億ドル相当)引き上げる。そして、責任感のある借り手がモーゲージにアクセスできるようにするために、"Realizing the Dream"プログラムを実施する。具体的には地域の住宅コストに応じてGSEが購入できるローンの上限を一時的に引き上げ、即座に流動性を供給させる。さらに、立ち退き救済法を制定し、立ち退きに関するコンサルタントのスタンダードを定めると同時に、不正摘発のための補助金を州政府に提供する。
退職後の保障を改善するために貯蓄増進策を講じる。
4.財政規律を回復する
90年代の財政ルール(PAYGO原則)を復活させ、均衡財政・財政黒字を目指す。
一読して気がつくのは「回復する」「取り戻す」といった表現が目立つことだ。米国の選挙では将来指向のメッセージが求められるというのが通説だが、「昨日のニュースは良いニュースだ」というクリントン前大統領の発言に、ヒラリー陣営の開き直りを感じさせる。
もっとも「取り戻す」ことが、すなわちクリントン政権への全面回帰を意味しているわけではない。例えばヒラリーは、NAFTAの「再評価と調整」の必要性や、通商交渉の「一時停止」論を再び持ち出している(Page, Susan, "Clinton seeks to re-evaluate NAFTA", USA Today, October 8, 2007)。この問題には改めて触れる機会があると思うが、レトリックと実際の乖離には、くれぐれも注意する必要があるだろう。
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