Lazy Obama ?
民主党の予備選挙では、ヒラリーの優位が確立されてきたとの見方が優勢である。オバマの伸び悩みの一因は、政策面での「怠惰さ」にあるのかもしれない。
ワシントン・エクザミナーのビル・サモンが最近発表した「The Evangelical President」は、ブッシュ大統領が民主党の候補者としてヒラリーが有力だと考えているという記述が大きく報道されている。しかし、個人的に興味深かったのは、オバマに関するホワイトハウスの匿名上級スタッフの評価である(Sammon, Bill, “President predicts GOP will keep control of White House after 'tough race' in 2008”, Washington Examiner, September 23, 2007)。このスタッフは、オバマが大統領になるために必要な知的な厳格さを備えているにもかかわらず、安易に自分の魅力に頼っていると指摘する。オバマの有権者への態度には横柄さが感じられるが、それは「これくらいのことを言っておけば大丈夫だろう」という意識の表れであり、知的な怠惰さを象徴しているというのである。例えばオバマは、著書Audacity of Hopeのなかで、「政府のプログラムは宣伝どおりに機能しているわけではない」と書いているが、あるテレビの番組でたずねられた時には、なかなかその具体例を示せなかったという。ようやくメディケアや眼ディケイドの請求が電子的に行われていないと答えてはみたものの、実際にはこれらは既にほとんど電子化されていた。同スタッフは、「オバマは大統領になるために必要な厳しい下準備を怠っている。もう手遅れだ」と手厳しい。
このページでも、オバマが安易に「新しい政治」「ワシントンのロビイストとの決別」「党派対立の克服」といった議論に頼りがちだという印象を何度か指摘してきた。オバマ陣営にとっては、これも大事な戦力なのだろうとは思うが、気になり始めたら目に付くものである。例えば最近では、オバマは民主党の医療保険改革案について、ヒラリーとエドワーズ、そして自分の改革案の内容は、95%が共通していると発言している(Davis, Teddy, “Obama Says Health Plan is '95% the Same' as Dem Rivals”, ABC News, October 9, 2007)。だからこそ重要なのは、「保険会社や製薬会社を乗り越えられるのは誰か」だというのが、オバマの主張である。しかし、既に触れたように、3人の改革案の中では、オバマ案だけが「義務付け」を含んでおらず、皆保険制が担保されていない。その違いが5%か20%かはともかく、自分だけが明らかに違う提案をしているにもかかわらず、そこを素通りして「反ワシントン・ロビイスト」に議論を持ち込むのは不親切である。
ワシントン・ポストのルース・マーカスも、オバマの政策面での実力に疑問を呈している(Marcus, Ruth, “The Two Obamas”, Washington Post, September 26, 2007)。マーカスは、オバマは労働組合を前に行った演説ではお決まりのポイントをきれいにそろえて大変な盛り上がりを演出できたが、ブルッキングス研究所で行った税制改革に関する演説は全く盛り上がらなかったと指摘する。オバマの提案は伝統的な民主党の手法に則って、既に低い中間層の税負担をさらに引き下げたり、財政上厚遇されている高齢者にさらに減税を行うといった内容に過ぎず、本当に必要なAMT改革や医療保険に関する抜本的な税制改革には一切言及が無かった。著書の中でオバマは、財政再建のためには投資の先送りや困窮する米国民に対する救済策の湯銭順位を再考する必要があると指摘しているが、2004年のケリー案の10年分の減税を1年で行うという今回の提案の中には、優先順位が熟考された形跡は無い。高齢者が多いアイオワ州の現状を意識したのかもしれないが、税制改革案の中にはお得意の「Audacity(大胆さ)」はどこにもないというのが、ルーカスのオバマ評である。
オバマの税制改革案に関しては、ワシントン・ポストの社説も厳しい(editorial, “Mr. Obama's Cookie Jar”, Washington Post, September 25, 2007)。この提案は「クッキーをどうぞ」と差し出すようなもの。民主党の予備選挙関係者には心地よく聞こえるだろうから、利口な政治的提案とはいえるのかもしれないが、利口な政策とは言いがたい。むしろエドワーズの税制改革案の方が、低コストでありながら必要な国民にターゲットが絞り込まれている。
アドバイザーという点では、オバマは十分すぎるほどの政策面でのインプットを受けられるはずである。オバマのもとには、民主党のエスタブリッシュメントとも考え方の近い有力な識者が集結している。外交政策だけで200人、国内政策では500人以上の指揮者がオバマ陣営と何らかのかかわりをもっているといわれる。予備選挙段階とは思えないその充実振りは、ほとんど本選挙に臨む候補者のそれである(Dorning, Mike, “Obama's policy team loaded with all-stars”, Chicago Tribune, September 17, 2007)。
ボストン・フェニックスのスティーブン・スタークは、オバマは自分が「変化」を実現できる人間だと繰り返すばかりで、その「変化」が国をどこに導くかというビジョンを提示できていないと指摘する(Stark, Steven, “Obama Needs to Get Over Himself”, Real Clear Politics, October 11, 2007)。大統領にはさまざまな提案や議論の中から、国が進むべき方向性を見据えて、適切な政策を選び出していく能力が要求される。現時点での政策提案のあり方を通じて、こうした意味でのオバマの実力が問われているのかもしれない。
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