2007/08/29

Things to Come II : ジュリアーニの医療保険改革案

一昨日はロムニーの医療保険改革案を「ジュリアーニに続く共和党有力候補による改革案」と紹介したが、よくよく見返して見ると、ジュリアーニの改革案をきちんと取り上げていなかった。遅ればせながら、その内容を整理しておきたい。

7月31日に発表されたジュリアーニの改革案は、3分野10項目で構成されている。

1.政府ではなく患者・家族の力を強める
・税制改革による選択の幅の拡大(1万5千ドルまでの医療費所得控除化)
・税額控除などによる低所得層の医療保険購入支援
・品質・価格の透明性向上
2.お役所仕事と医療のデリバリー改革
・医療訴訟改革
・ブロック・グラントによる州政府の改革促進
・州による保険規制緩和・州を跨いだ保険購入の容認
・新薬承認プロセスのスピードアップ
・官民パートナーシップによるIT化促進
3.健康促進のための保険カバレッジ改革
・HSAの基準緩和
・州の予防医療・生活習慣病対策とメディケイド補助金の関連づけ

お気付きのように、具体的な改革案の内容は、ロムニーのそれと似通っている。柱の一つが個人保険購入に関する税制改革なのも同じである。

ジュリアーニの改革案に対しては、「改革」の看板に値しないという批判もある(Klein, Ezra, “A Man With a (Non-)Plan”, American Prospect, August 2, 2007)。詳細さに欠けるのもさることながら、義務付け等もないし、所得控除はそもそも所得税を払っていない低所得層には無力である。これでは無保険者は減らないし、医療コストも下がらない。また、企業提供保険から個人保険に移れば、保険会社に対する加入者の立場が弱くなるという指摘もある(Gross, Daniel, “I Can Get It for You Retail”, Slate, August 9, 2007)。

見逃せないのは、そもそもジュリアーニの改革案は無保険者対策を謳っているわけではないという事実である。むしろジュリアーニの改革案は、民主党の提案を攻撃するための足掛かりとしての色彩が強いといえるかもしれない。ロムニーのラインにも似ているが、民主党の提案は「大きな政府」の典型であり、医療保険を取り巻く状況をかえって悪化させるというわけである。実際にジュリアーニが改革案を発表した際には、「民主党」という言葉が6回、「シングル・ペイヤー」が8回使われたのに対して、「無保険者」への言及は一度もなかったという(Klein, ibid)。「社会主義的なモデルは政府を破産させる。そこにヒラリー、オバマ、エドワーズは導こうとしている。罠に気付かなければ大変なことになる。カナダやフランス、英国型の医療保険になってしまう」などと、その批判ぶりはなかなかカラフルである(Santora, Marc, “Giuliani Seeks to Transform U.S. Health Care Coverage”, New York Times, August 1, 2007)。

既に述べたように、実際に改革案が目指す姿について、共和党と民主党にどれほどの違いがあるのかは疑問である。しかし、ジュリアーニやロムニーの態度を見る限りでは、合意出来る部分を探して超党派で改革を進めようという気配は感じられない。予備選特有の現象であるにしても、こうした論戦によって歩み寄りの「土壌」が汚染されすぎれば、改革の実現は遠のいてしまいそうである。

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