2007/08/09

「税」への回帰を模索するブッシュ政権:環境は変わっていないのか?

困った時には原点に戻るのは、古今東西を問わない常道。しかし、どこまで戻れるかは別の問題である。

ブッシュ政権は、8月8日に行なったプレスとの会見で、経済政策の目玉を税制に戻す意向を示唆した。特に目を引いたのは、国際競争力の観点から、法人税率の引き下げを検討しているとした点である(Baker, Peter, "Bush May Try to Cut Corporate Tax Rates", Washington Post, August 9, 2007)。ブッシュ政権にしてみれば、2期目に入って年金や移民といった目玉を打ち出したものの、どれも鳴かず飛ばず。民主党と対決するには、第1期の経済政策の中心だった税制に立ち返り、「低い税金を支持する共和党」で臨むしかないという判断があるようだ。確かに民主党は、税制の累進性強化や、増税に向けて歩を進めている。また、ポピュリズムの文脈では、大企業批判も強めている。ここで共和党が法人税減税に動けば、両党の違いが際立って来るようにも思われる。実際にブッシュ大統領は、8月8日に行われたFOXテレビでのインタビューで、「共和党の候補者は大統領から距離を置こうとしているのではないか」と問われたのに対して、「税負担を低くするという大きな論点では、共和党の候補者はそれこそが正しい政策だと理解している」と回答し、「税」を共和党の売りにしていく考えを滲ませた。

もっとも、税制に立ち返るといっても、そこには限界がある。具体的には、ブッシュ政権は一層の減税を提案しようとしているわけではない。法人税率の引き下げは、税収中立の税制改革として検討されている。すなわち、ループホール対策や租税特別措置の見直しによる増税で、税率引き下げによる減税を賄うという考え方である。米国の法人税の特徴は、最高税率が高い割りには(先進国で米国より高いのは日本だけ)、経済規模対比の税収が小さいこと。企業の税回避のために課税ベースが毀損している可能性が高く、この点の是正には、民主党サイドにも異論は少ない。後は増収分をいかに使うかという問題である。両党の意見が一致している訳ではないが、これが単なる法人税減税ならば、民主党に受け入れられる可能性が極めて低くなるのは事実である。民主党は、高所得層の平均税率が下がっている点を問題視しているが、その大きな要因は法人税収にある。吹き始めた累進性強化への風は、法人税減税には逆風だ。

累進性強化に関しては、共和党陣営に足並みの乱れも感じられる。一部の共和党議員が、医療保険改革の一貫として、「負の税額控除」を提案しようとしたのである(Novak, Robert D., "A GOP Muddle On Taxes", Washington Post, August 6, 2007)。「負の税額控除」とは、所得税負担のない低所得層に対しても、控除分を還付する仕組みである。議員に「増税反対の誓い」への署名を求めているAmericans for Tax Reformなどは、「負の税額控除」は減税ではなく歳出拡大だという立場をとっているが、共和党の中にも「公平さ」を主張する動きが芽生え始めているのかもしれない。

繰り返しになるが、税制の分野において、共和党と民主党の立場の違いが消え去ったわけではない。ブッシュ減税の延長問題もあり、税制は大統領選挙の大きなテーマになるだろう。しかし同時に、こうした議論が立脚している「地盤」自体は、ブッシュ政権が誕生した頃の姿から多少なりとも変容しているような気がする。

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