2007/08/24

Marking Earmarks:「紐付き予算」を巡る攻防

8月も次第に終わりが近付いてきた。9月になれば議会も再開される。ブッシュ政権と議会民主党の対立の構図は継続される可能性が高いが、イラク戦争と並んで大きな論点になると見られるのが、来年度予算の審議である。8月23日に発表されたCBOの見通しにもあるように、米国の足元の財政事情は必ずしも厳しいというわけではない。しかしブッシュ政権は、民主党を「浪費と増税の党」と攻撃する腹積もりで、大統領案を上回る歳出法案にはすべて拒否権を発動するという強硬な姿勢を示している。

一つの論点になっているのが、「紐付き予算」の取り扱いである。特定のプロジェクトへの利用を歳出法の中に書き込んでしまう紐付き予算は、地元への利益優遇措置であり、利益団体との癒着の温床になっていると批判されることが多い。昨年の議会では、人口の極端に少ない島に橋("Bridge to Nowhere")を作ろうとしたアラスカ州の共和党議員が厳しい批判の対象になった。批判の急先鋒だったのは、共和党内の「小さな政府」論者だったのだが、今年は民主党が多数党になったために、こうした共和党議員の舌鋒はさらに鋭くなっている。

民主党に都合が悪いのは、鳴り物入りで始めた予算制度の改革が意外な結果をもたらしていることだ。昨年の議会選挙では、民主党も共和党の放漫財政を攻撃しており、紐付き予算対策も公約の一部だった。その具体策として民主党議会は、予算過程の透明化を進めてきた。これによって、例えば予算の審議過程で紐付き予算の一覧表が作成され、どの議員が個別の紐付き予算を要請したのかが公表されるようになった。

直感的には、こそこそ出来なくなれば、余りに利益誘導が明白な紐付き予算は推進されなくなるだろうという気がする。しかし現実は違った。むしろ議員は積極的に紐付き予算を使っているというのである(Andrews, Edmund L., and Robert Pear, "With New Rules, Congress Boasts Of Pet Projects", New York Times, August 5, 2007)。自らの戦果を地元に示しやすくなったのが一因である。また、他の議員の戦果が見えやすくなったために、「それなら自分も」という動きを見せる議員もいるようだ。

これに対して議会民主党の指導部は、New York Times紙にエマニュエル議員が投稿し、「紐付き予算自体が悪いのではなく、問題はその中身。プロセスの透明化だけでも十分な改革だ」とする論陣を張っている(Emanuel, Rahm, "Don’t Get Rid of Earmarks", New York Times, August 24, 2007)。確かに、議会が紐付き予算にしなければ、具体的な用途は行政府が決めるだけ。どちらの方が適切に使われるかは一概には言えない。「イラク・スタディー・グループだって元はといえば紐付き予算で始まったものだ」というのは、それなりに納得の行く主張ではある。この他にもエマニュエル議員は、自分がどんな予算を地元に持って帰ったかを堂々と主張している。その中には、崩落の危険が指摘されていた橋(しかもテロの際の主要な避難ルート)の修復費用などというタイムリーなものも含まれている。

英語では紐付き予算のことをearmarkという。もともとは家畜を識別するために耳につけるマークが語源らしい。そういえば何となく可愛らしい感じがしないでもないが、これがなかなかどうして曲者なのである。

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