2007/08/31

ブッシュのサブプライム対策とオーナーシップ社会:What Comes Around Goes Around

「大統領候補者のスタンスもそのうち」なんて悠長なことを言っていたら、先に現職大統領に動かれてしまった。サブプライム対策の話である。

ブッシュ政権は、31日に借り手救済に重点を置いたサブプライム対策を発表する方針を明らかにした。あと数時間後に正式発表なんだから確認してからにしろよ、という声もあるかと思うが、取り敢えず30日の事前ブリーフィングに関する報道によれば、概ね次のような提案が行われるようである。

1.FHA(モーゲージへのローン保証を提供)によるリファイナンス支援
・保証対象者の基準緩和、リスクに応じた金利設定の容認
・保証対象ローンの上限引き上げ
2.リファイナンスに関する税負担緩和
3.その他のリファイナンス支援(GSEの利用を含む)・悪質な貸し出し慣行対策・格付け機関問題の検討

このタイミングでの発表は、やはり31日予定のバーナンキの演説とのからみもあるだろうし、来週からの議会再開も多分に意識されているだろう。民主党に攻め込まれる前に先手を打っておこうという計算である。そもそもブッシュ政権は、政府としての介入には消極的だった。借り手救済に関しても、借り手は契約書の細部を読んでおくべきだったとして、むしろ金融教育の必要性を説いていたほどだった(Weisman, Steven R., "Bush Faults Easy Money For Volatility", New York Times, August 9, 2007)。しかし、金利リセットによる差し押さえが今後も増えて行くと予想される中で、共和党の中には、余りに冷淡な態度を続けていては、カトリーナの二の舞になるという懸念もあったという(Weisman, Steven R, "Bush Will Offer Relief for Some on Home Loans", New York Times, August 31, 2007)。

サブプライムの問題は、民主党がブッシュ政権・共和党の経済政策を攻撃する格好の題材になり得る。そもそもサブプライムが流行したのは、成長の果実が中低所得層に分配されず、賃金が伸び悩んだからだ。オーナーシップ社会といっても、まさに国民が家のオーナーシップを失っているというのが現実であり、国によるセーフティーネットこそが重要なのではないか。分配と保障への経済政策の重点移動を主張する民主党にとっては、訴えやすい議論である。

皮肉なのは、ブッシュ政権がFHAを持ち出してきたという事実である。もとを辿れば、FHAというのはニューディール政策の一環として設立された機関である。しかし、オーナーシップ社会構想の狙いは、ニューディール体制を突き崩す点にあった。ニューディールの流れをくむ政策スキームを弱体化させれば、その恩恵を享受している人々を民主党支持から引き剥がせるという思惑である。モラルハザードや政府の肥大化を懸念するブッシュ政権としては、取り敢えずはFHAによる限定的な関与で様子をみたいというところなのだろう。それでも、こうした経緯を考えれば、保守派の中には忸怩たる思いがあってもおかしくはない。他方で、「持ち家の促進」がオーナーシップ社会構想のオリジナル・ラインナップに含まれていたのも事実である。そうなると、むしろ注目すべきなのは、政府の役割に関する「小さな政府」とは一線を画したオーナーシップ社会構想の立ち位置なのかもしれない。

これからリセットを迎えるサブプライムローンは5,000~6,000億ドルといわれる。これに対して利用者が支払うプレミアムからなるFHAのファンドは220億ドルに過ぎない(Irwin, Neil and Dina ElBoghdady, "Bush to Offer Proposals To Ease Mortgage Crisis", Washington Post, August 31, 2007)。一歩踏み出したブッシュ政権が、どこまで歩みを進めなければならないのかは、サブプライムを巡る今後の状況に左右される。何やら、戦場の現実に引きずられざるを得ないもう一つの悩みの種を彷彿とさせる構図である。

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