2007/08/14

ローブの退場に民主党への教訓はあるか

米国のメディアでは、カールローブ退場に関する論評が花盛りである。いずれにしても、ブッシュ政権の退潮振りが一層はっきりしてきたわけだが、一方で注目されるのは、上り調子の筈の民主党が、どこまで「左」に回帰していくかである。

民主党支持者の間には、今こそ民主党は、「大きな政府」のレッテルを恐れずに、政府の役割を積極的に支援する方向性を明確に示すべきだという意見がある。そのシンボルとなっている出来事が2つある。第一は、このページがお休みを頂いていた8月1日に発生した、ミネアポリスのI-35Wブリッジの崩壊である。The Nation誌等は、インフラ整備には5年間で1.6兆ドルの費用が必要だという研究を引用しながら、イラク戦争の終結までに1兆ドルが必要になることを考えれば、政治的な意思さえあれば十分に対応できる金額だと主張する(Heuvel, Katrina vanden, "A New New Deal", The Nation, August 8, 2007)。さらに同誌は、医療やエネルギー分野など、これまで見過ごされていた分野にも積極的に公共投資を行ない、幅広い中間層に向けた良質な雇用を生み出す必要があると主張する。

もう一つの出来事は、春先から議会で論点になっている、SCHIP(低所得家庭の児童に対する公的医療保険)の拡充問題である。民主党はその大幅な拡充を主張するが、ブッシュ政権は政府の規模拡大に外ならないとして、拒否権の発動を示唆している。American ProspectのPaul Waldmanは、SCHIPの問題こそは、民主党が政府は「問題」ではなく「解決策」になり得ると主張する好機だと主張する(Waldman, Paul, "The Failure of Antigovernment Conservatism", The American Prospect, August 8, 2007)。世論は明らかに民主党の側にあり、共和党の理論武装も弱く、前述のインフラ投資の問題とも絡めて、政府の重要性を主張しやすいからだ。Weldmanに言わせれば、最近の民主党は、保守主義の強さにショックを受け、中道に寄らなければいけないという脅迫観念に取り付かれた、政治的なPTSD患者のようなものだった。しかし、今こそ「保守主義」に「政府の敵」というレッテルを貼る好機だというのが、彼の主張である。

こうした民主党系の識者による論調には、「驕り」の気配が漂っているような気がしてならない。確かに、政府の役割に対する米国民の意識は高まっている。しかしそれは、いかに政府をきちんと機能させられるかという問題意識であって、必ずしも政府の「大きさ」に関する意識の変化とは言い切れないのではないだろうか。大統領選挙の論点として、候補者の「能力」が脚光を浴びているのも、こうした流れの一環だろう。高速道路の補修にしても、8月6~7日にCNNが行った世論調査では、そのための増税には反対するという回答が65%を占めている(Tsikitas, Irene, "No New Taxes (for Bridge Repair)", National Journal, August 13, 2007)。そうであれば、「新たな支出を考える前に、優先順位を再考すべきだ」という8月9日の記者会見におけるブッシュ大統領の発言の方が、有権者の意識には近いのかもしれない。実際のところ議会には、地道な補修工事よりも絵になり易い新規建設に重点的に予算を配分してきたという経緯もある(Saulny, Susan and Jennifer Steinhauer, "Bridge Collapse Revives Issue of Road Spending", New York Times, August 7, 2007)。

カール・ローブは、2004年の大統領選挙で勝利を納めた時点では、「永続的に続く共和党支配の始まり」を夢見ていた。しかし振り返ってみれば、その時こそがローブの頂点であったといっても過言ではない。上り調子に見える時にこそ、足元を見据えなければならない。民主党は、そんな教訓を学べるだろうか。

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