2008/08/29

Star is Born ? / ペイリン旋風がやってくる!?

何だかすごいことになってきた。マケインが選んだ副大統領候補は、アラスカ州のペイリン知事だった。今年の大統領選挙には、黒人、ハワイ、女性、アラスカ、という要素が入ってくるわけだ。しかも、ペイリンの旦那さんには、エスキモーの血が流れているという。最近生まれたばかりのお子さんは、ダウン症だったりもする。長男は陸軍で、9月11日にイラクに向かうという。ほとんど無名だったペイリン知事。しばらくは"average hockey mom"のストーリーが、メディアを賑わせそうだ。

オバマ陣営にとっては、ペイリンは戦い難い相手だろう。オバマの問題の一つは、一般有権者の共感を得難いという部分にある。このため昨日の演説でも、オバマは自らの生い立ちを語りつつ、「普通の国民」のストーリーをふんだんに盛り込こんだ。ブルーカラーの出自であるバイデンを副大統領候補に選んだのも、一つには同じような理由がある。返す刀で、マケインは庶民の暮らしが理解できない、何せ「自分の家の数すらわからない」のだから、と切り返すという戦略だ。そこに出てきたのがペイリン知事だ。結婚式を上げるお金がなく、裁判所ですませてしまったという同知事は、狩猟や釣りが趣味。いかにも庶民に好かれそうな雰囲気である。

オバマ陣営のイニシャルのリアクションは、「人口9000人の町の町長で、外交経験ゼロ」というものだが、このようないい振りは利口とはいえまい。人口9000人のアラスカの町を「見下している」と言われかねないからだ。なにしろ、アラスカ、というのは米国人の好きな「フロンティア」な感じがする(?)。ペイリン知事の好物は「ムースバーガー」だ(!?)。なぜかハワイとは違う。なぜだかは、良く分からないが...(そういえば、昨日の「オバマ劇場」でも、ハワイ部分は極めて扱いが小さかった)。それに、「(オバマ候補の)経験の浅さを攻撃してきたが、そっちだって経験は浅いじゃないか」という言い方は、「経験の浅さ=望ましくない」という議論を認めることになる。必ずしもオバマ陣営にとって助けになる論法ではないだろう。

バイデンとの対比も難しい。確かに、外交経験ゼロ、政治経験もオバマより無い(!)という点では、バイデンとは雲泥の差である。しかし、これは下馬評にあった他の有力候補者でも同じこと。例外はリーバーマンだが、これは共和党内部での混乱が予想されていた。そうであれば、思い切って対照的に新鮮な顔をもってくるというのは一つの見識だ。はっきりとは言い難い部分だが、「討論会で女性を叩くのは難しい」というのは米国の常識だ。ヒラリーの例をみればおわかりだろう。

トリッキーなのは、ヒラリー票との兼ね合いである。多くのメディアは、マケインが女性を副大統領候補に選んだことで、ヒラリー票/女性票の行方が改めて焦点になってきたと指摘している。確かに、そうした側面はあるだろう。ペイリン知事も、こうした狙いを明言している。しかし、ペイリン知事の売りは、政策的にはバリバリの保守であること。だからこそ、共和党内部からも歓迎論が多い。ヒラリーとは性別は同じでも、政策は全く違う。それでも、ヒラリー票は動くだろうか?

むしろペイリン知事の強みは、マケイン候補に「変革」のイメージを与えられること。若く、ワシントンからは(地理的にも)遠い。アラスカでは政治改革・財政改革に取り組んだ。何度か触れているが、ローブ以来の選挙戦の常道は、「弱み」を強み」に変えること。昨日の演説で、オバマ候補が「司令官としての資質」を正面から取り上げたのも、その伝統に則っている。そしてマケイン候補は、「旧態依然」との攻撃を正面からひっくり返そうとしている。

オバマ陣営にとって大切なのは、照準を誤らないことだ。メディアはペイリン知事に飛びつくだろう。しかし、オバマ陣営の照準はあくまでもマケインである。昨日のオバマ演説は、マケイン批判のトーンの高さが際立った。オバマ陣営は、オバマへの信任投票から、オバマ-マケインの選択に戻そうとしている。ペイリン旋風に惑わされてはいけない。むしろ、旋風が吹き荒れるのであればこそ、激戦州での地道な組織戦略が重要になる。

知られていない知事だけに、マケイン陣営には、これからどんな爆弾が飛び出すかわからないというリスクはある(たとえば、メイドの社会保障税を払っていないとか...)。しゃべりがどうなのか、といった点も、全く自分にはわからない。それでも、この選択が選挙戦を大きく揺るがしているのは確かだ。

少なくとも、ペイリン旋風は、オバマの「歴史的な演説」を吹き飛ばしてしまった。オバマ演説が世間を騒がす中で、情報は少しずつ流れ出していった。アラスカからチャーター機がマケインが演説を予定していたオハイオに飛んだという情報が流れる。ローブがほのめかす。ポーレンティーが否定する。ロムニーが否定する...。少しずつ、少しずつ。驚きと期待感が醸成される。

見事な情報戦略だった。

フロントランナーであるオバマは、バイデンという玄人好みの安全な選択をした。アンダードックであるマケイン陣営が、安全な選択をしてもしょうがない。タイミングとあわせて、秀逸な一手というべきだろう。

それはそうとして、旋風は旋風でも、気になるのはハリケーンですね。共和党大会の開会延期や、ブッシュ大統領の演説キャンセルも検討されているとか...。

1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

Sarah Palinという女性はどういうひとだろう?
2006年12月にアラスカ州知事になって2年に満たない、20ヶ月。
Chairwoman of Alaska Oil and Gas Consevatation Commission
(アラスカ石油ガスの自然保護委員会の会長)

2002年から2期4年、アラスカの小さなWasillaという人口8500人の小さな町のMayor(町長)。

たぶん日本のメディアでは「市長」と訳すだろうけれど、Mayorは規模によって日本の市長または町長にあたる。
規模の小ささからいって、「町長」という感じが日本語訳としては適切かと思う。

1998年から2期4年は、そのWasillaという小さな町のCity Council(町会議員)

つい最近、2006年まで小さな町の町長だった女性で、今はアラスカ州の知事とはいえ、アラスカ州の人口はデトロイト市より少ない。
全く国政経験が無く、当然外交経験も全く無い人物が、いきなり副大統領候補とは、ほとんどの人は、仰天している。

それはあまりに予想外の選択で、マスコミはたいしたプロフィールも準備できていないらしく、詳しいプロフィールは明日とかニュースで言っていた。

わたしはネットで彼女の上記以外のプロフィールを調べてみた。

1964年生まれ44歳。
1987年University of Idaho卒業 専攻ジャーナリスム
卒業後、アラスカの二つのテレビ局でスポーツレポーター。
結婚年は不明。
1994年から1997年(町会議員になるまで)は夫とともにSnowmobil, Watercraft, ATVのビジネスをする。

PTA活動のリーダー。
本人の弁では「私は普通の"ホッケー・マム"(ホッケーをする子供の送り迎えや応援をする母親たちのこと)だった。」

夫はブルーカラー労働者で、North Slope Oil のフィールドワーカー。

5人の子持ちで、長男は陸軍でイラクに赴任するところ。一番小さい子は今年4月に生まれたばかりの赤ちゃんでダウン症の障害をもつ。

前代未聞の驚きの経歴だ。
副大統領候補としては、あまりに政治経験不足。
今までの候補と比べると、プロフィールもあまりに低い。

一口で言うと、ふつうの主婦だった人が、PTA活動から、10年前に町会議員になって、ローカル行政・政治にかかわってきただけという経歴。
University of Idaho卒業というのも、現代の米国では、大学院卒が高学歴の主流なので、あまり高くない学歴。

ほかにどのような経歴があるのか公表されていないのでよくわからないが、これで見る限りでは、国民に望ましい副大統領候補としてアピールできるのか、個人的には疑問。

マケイン自身はまさにこういう人を探していたのだというのだが、わたしは、いまのところの印象では、マケインにがっかりした。
マケインは高齢なだけあって、やっぱりかなりの伝統的な価値観の持ち主で、革新的なバリ・キャリ女性は好みでないってことらしい。

マケインは自分に足りない若さや女性票をねらって、彼女をえらんだのだろうけれどねえ。

しかし、どちらかといえば保守的な女性層には受けるかもしれない。それは10年前まで"ホッケー・マム"だった主婦が今は米国副大統領候補という、映画の中の夢のようなことが現実に起こって、たいへんなシンデレラストーリーだ。

結婚をし5人の子供を育て、PTA活動をやり、地方行政にかかわり、
学歴もそこそこで、世間で言われるようなエリートでなくても、副大統領候補になったということだけですごいことだ!
たいした人物だと思う。
まだ、情報として流れていないことで彼女の人々にアピールする魅力がこれから徐々に11月4日までに出てくるのだろうとは思う。

わたし自身はオバマがどうしても好きになれないので、マケインに入れようと昨日まで思っていた。
しかし、今日の副大統領候補を見て、いまのところ、どちらも選ばない棄権にしようかなと思う。

マケインはわたしが思っていたよりずっと頭が硬いのかなあ。ああいうタイプの女性を選んでも、すくなくともヒラリー派の女性票がとれるのかどうか疑問。マケインの選挙戦略をサポートする人にろくな人がいないのかなあ?

ヒラリーが好きな人は多くは彼女のごりごりのキャリアに特に魅かれるのだ。フィオリーナみたいなトップエグゼクティブを勤めた女性だったら、政治経験がなくても応援するだろうけれど・・・。
それに、この女性は中絶反対派で銃規制反対派、イラク出兵派だ。

副大統領候補としてこれから11月4日までの道は多難だ。彼女にいくら優秀なブレーンやサポートが付こうとも、自分で切り抜けなければならない場面は数多くある。
演説、討論、タウンミーティング。苦手なところをさんざん攻撃されるだろうことが予想される。彼女の実力が試される。

11月の本選近くに全米にテレビ中継される副大統領同士の討論会はいったいどうするのだろう。あんな35年だかの国政経験が長いバイデンと一騎打ちで、たちうちできるとはとうてい思えない。

今のところマスコミは多くは、マケインは高齢だし、もしなにかあったら、この女性が国政を担うことになる。たとえば軍事のトップ・コマンダーとしてやっていけるのだろうかと疑問のコメントを多く投げかけている。

いまのところ、マケインは「負け印」になりそうだなあ。