2008/08/26

Where the Policies Have No Names / 民主党大会初日

民主党大会初日。注目されたミシェル夫人の演説は、なかなかの出来だった。ほどよくアップビートで、だからといって押し付けがましくない。自分たちこそがアメリカンドリームを体現してきたという主張を、あくまでもさりげなく、けれどもほがらかに訴えた。「変化」といった浮ついた言葉に舞い上がることもない。なにせChangeという単語は3回しか使われていないのだ。

トランスクリプトでは読み取り難いが、このほどよい雰囲気・トーンはなかなか出せるものではない。「クールさ」が時に批判されるオバマ候補に対して、ミシェル夫人には「高圧的」というイメージがあった。しかし、この辺りは上手くコントロールされていた。前回の大統領選挙では、夫人の演説は今ひとつだったので、久しぶりに驚かされた。

夫人の演説の大きな狙いは、オバマ候補に親近感をもたせること。支持率伸び悩みの要因となっている"otherness"の問題に切り込むことだった。その点では、演説もさることながら、その後に衛星放送で画面に登場したオバマ候補が語ろうとするタイミングで、振り付けを完全に無視した娘たちが呼びかけてしまう場面は、なんともアットホームな雰囲気だった。「子供を使うのはずるい」というのはいつの選挙でも聞く議論だが、こればかりはしょうがない。オバマ候補の登場を知らなかった娘たちは、「サプライズがある」と聞かされて、Jonas Brothersなの?と聞いたらしい。 ...どう考えても可愛すぎる。

それでも、オバマ候補が抱える最大の課題は解消されていない。それは、オバマ政権が、有権者を「どこに」連れて行こうとしているのか?という疑問である。ミシェル夫人は、「世の中をありのままに受け止めるのではなく、『あるべき姿』を求めるべきだ」と繰り返し訴えた。では、「あるべき姿」とは何なのか。医療保険や教育など、具体例を語る段になると、そのイメージは一気に散漫になる。これは「変革」を訴えるオバマ自身の演説にも共通した傾向である。具体案がないわけではない。欠けているのは、具体案を貫くストーリーであり、共感できる「あるべき姿」だろう。その意味では、「メッセージに欠けている」というカーヴィルの辛口コメントも頷ける。

National JournalのRonald Brownsteinは、オバマ候補の経済政策には、全体を象徴する標語が存在しないと指摘する(Brownstein, Ronald, "Direction Makers", National Journal, August 23, 2008)。クリントンであれば、New Democrat、 Third Way、 Putting People Firstといった言葉が思い浮かぶ。ブッシュ大統領なら Compassionate Conservatismだ。しかしオバマ候補は、こうした一言で政策の内容を示すような標語を持ち合わせない。そこにあるのは"Change You Can Believe In"であって、"Change"が何かは表に出てこない。むしろ、政策の内容ではなく、党派の違いを超えた団結、特殊利益からの決別、といったプロセスの変化に重点があるようにすら読み取れる。

あるいは、オバマ候補の政策への立ち位置は、"Clear-Eyed Pragmatist"という言葉に端的に表れているのかもしれない。バイデン議員を副大統領候補に選んだ際に、オバマ候補が同議員を評して使った言葉である。本選挙最大の掘り出し物サイト(?)であるfivethirtyeightは、オバマ候補が予備選挙で謳っていた壮大な「変化」のテーマは、今の有権者の雰囲気にマッチしないと指摘する。ブッシュ政権の問題が、腐敗や壊れたシステムの必然の帰結ではなく、ブッシュ自身の間違った判断にある以上、有権者が求めているのは、ブッシュと違った思考方式で、ブッシュが作り出した苦境から米国を救える候補者だというわけだ。

一方で、オバマ候補の経済政策やその政策哲学が、基本的には「大きな政府」の方向にあるのは事実である。言ってしまえば、リベラルの哲学に沿いながらも、現実的な問題解決を図るとういことなのだろうが、オバマ候補の立ち位置をどう整理するのか、研究者やメディアの間でも今ひとつ整理がついていない。有権者に「変化」のたどり着く行き先が見え難いのも無理はないところである。そして、こうした不透明さが、とくに日々の暮らしに不満をもっている白人労働者層が、オバマ支持に踏み切れない一つの理由になっているのだろう。

分かりやすいストーリーを描くことができるのか。それとも「変化」への求心力で押し切るのか。最終日に控えるオバマ候補の演説の見所である。

と、その前に、今晩はヒラリー劇場ですね。毎晩ハイライトは夜10時からなので疲れます。日本で観劇していた方がラクかも...

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長らく中断してきたTaste of the Unionですが、思い立って復活することにしました。いろいろ思うところはありましたが、立ち止まっていても始まらないということで。備忘録の側面が強くなるとは思いますが、密やかに続けていきたいと思います。お付き合いいただければ幸いです。

1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

復活を心待ちにしていました。
これからも楽しみにしております。