2007/10/16

ポピュリズムと共和党

最近の民主党の方向性はポピュリズムへの傾斜と形容されることが少なくない。しかし米国の歴史においては、ポピュリズムは何も民主党の専売特許というわけではない。むしろ今の米国では、ポピュリズムの欠如が問題になっているのは共和党だというのが、外交評議会のピーター・ベイナートの意見である(Beinart, Peter, “The GOP's Fading Populism”, Washington Post, June 12, 2007)。

第二次世界大戦以来の共和党の最大の功績は、保守主義と反エリート主義を結びつけたことである。上流階級の思想と考えられていた保守主義は、ポピュリスト的な化粧を施すことで広範な支持を獲得する道を見出したのである。その発端はマーッカーシーによる共産主義批判(=エリート批判)やニクソンによる社会政策の争点化(=エリート、司法批判)であり、レーガンの大きな政府(=エリート、官僚)批判であった。

しかし、80から90年代にかけて共和党が政治的な成功を収めるに連れて、反エリート路線の標的を選びにくくなってきた。司法や官僚も右傾化し、福祉政策や犯罪対策の見直しも進んだからである。パット・ブキャナンは標的を企業エリートにすり替え、マケインはロビイスト批判を展開したが、これらはいずれも左派に対する攻撃というよりは、自らの支持基盤に矛先を向けるような議論だった。

こうしたなかでブッシュ政権は、イラク戦争を利用して保守主義にポピュリストの衣装をまとわせることに成功した。国が危険にさらされたときには、ポピュリズムは国を守る強いリーダーを求める機運につながりやすい。さらに国土安全保障の議論では、ブッシュ政権は盗聴権限の問題などを通じて、民主党を「大衆の安全よりも手続き論でテロリストの人権を尊重する知的エリート」として攻撃した。

ところがイラク戦争の泥沼化によって、こうしたブッシュ政権の路線も行き詰まる。イラク戦争の主眼がイラクの民主化に移ると、ポピュリズム的には事態の解決を担うのはイラク国民であるべきだということになる。米国内でテロが起きない以上、人権重視批判も緊迫感に欠ける。

共和党が選ぶ次のターゲットは何か。一つはブキャナン流の企業エリートである。ドバイによる港湾管理会社買収への反論が共和党サイドからも沸き起こったのがその表れだ。また、移民も新たなターゲットである。しかし移民に関しては、人権擁護派の民主党エリート批判であるだけでなく、労働力としての移民を必要とする企業も敵に廻すことになる。ブキャナンの当時と同様に、矛先は自らの足下を向いているのである。

結局のところ、共和党が新しいポピュリズムの理論武装を見出すのは難しいというのがベイナートの結論である。最近の共和党候補の議論をみていると、レーガン回帰論が盛んなように、再び攻撃の矛先が「政府」に向かっているようにも思える。もっとも理論構築の巧拙はさておき、米国民にこうした議論を受け入れる素地があるかどうかは、切り離して考えなければならない問題だろう。

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